空色幻想曲
 平民が大それた夢を持っても幻想で終わる、と鼻で笑った者は数多くいた。それでも今の俺は、夢でも幻でもなく確かにここにいる。

 遥か彼方に広がる青空をこの手に掴もうとまでは思っていない。ただ、この()に映る場所で護り続けたい。
 澄み渡る眩しさが決して曇ることのないように。

 そうすることが俺に唯一与えられた……生きる希望だからだ。

『リュート。何があっても……強く生きろ』

 星の瞬きにまぎれて、ふと、懐かしい声が降ってきた気がした。
 自分が何者かもわからぬ孤児の俺を、息子として愛情を持って育ててくれた人。

 俺にとっての英雄は今も昔も養父しかいない。

 その養父の想いに報いるためにも、俺は本当の意味で強くなりたい。
 誰よりも何よりも……

 ティアニス王女の誕生日は、8の月、空の日。
 成人の儀と女王の即位式までに、俺は何ができるだろう。


 空しい幻想ではない、確かなものを手に入れるため──……

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