空色幻想曲
(あれは……)

 バルコニーの片隅(かたすみ)で探しものを見つけた。

 ここに来たのは、あの息が詰まるような場所からただ逃げ出したかったわけではない。そこにあるはずの存在がいなくなっていることに気づいたからだ。

 それは、わずかな雲間から覗く青空のように美しい光をまとって(たたず)んでいる……

──歌姫だった。

 彼女の姿を捉え、息を呑んだ。

 物憂げに星を見つめる横顔。
 少し透ける素材で織り込まれたドレス。
 ショールの隙間から覗く白い肌。
 そして、薄紅の唇から零れる透き通った歌声。

 煌々(こうこう)と降り注ぐ満月の光を浴びて歌う彼女は、天使か女神のように儚げにも神々しくも映った。
 (つむ)ぐ旋律は冬の空気より透明で、胸を締めつけるようなせつなさを散りばめながら、藍の空に響き渡っている。

 ──これが、俺の知っている王女だろうか。

 夢見心地の中、ぼんやり思った。

 ──これが、あのジャジャ馬姫だろうか。

 食い入るように、彼女を見つめた。

 叙任式では緊張であまり目に入っていなかったらしい。今改めて、昼間のアレがよくここまで化けたものだ、と感心した。

 正直……見惚(みと)れた。
< 61 / 347 >

この作品をシェア

pagetop