空色幻想曲
(……童顔のわりに胸はあるんだな)

 胸元が強調されたドレスのせいか、あどけなさの残る顔立ちとのアンバランスさのせいか、自然と視線がそちらに向いた。アンバランスと言えども、悪い意味ではないが。

「どうしたの? ぼーっとして」

 いつの間に歌い終わったのだろう。こちらに気がついて声を掛けてきた。

 きょとんとした無邪気な視線を向けられ、なぜか先程(さきほど)までの自分の視線が(よこしま)なものに感じられて、それを悟られまいと意地悪く答える。

「あ、いや。『女装』だから一瞬誰だか──」

──バキ!!

 皆まで言い終わる前に制裁が加えられた。
 素直に受けたらまさかグーで殴ってくるとは……うっかり見かけに(だま)された。中身はジャジャ馬姫のままだ。

「失礼ね! あなた、ふつう騎士が王女にそういうこと言う!?」

「普通、王女が騎士に斬りかかるか?」

「う……。だますようなことして悪かったと思ってるわ……」

「どうだか。俺が初めてじゃないんだろう」

「な、なんで知って……!?」

「フェンネルに聞いた」

「もうっ、フェンったら~。男のクセにおしゃべりなんだから!」

 小さな子供のようにぷうっと頬をふくらませる。そのあどけない様子が何か()に落ちない。
 脳裏を(かす)めたのは……

 黄昏時(たそがれどき)の涙と、宴の間で目にした一瞬の憂い。

 疑問をそのまま口にしてみる。

「元気そうだな」
「別に、ふつうだけど?」

 あっけらかんとした素振り。
 なんとなくわかってはいたが、このジャジャ馬に正攻法は効かない。

 ならば──……!
< 62 / 347 >

この作品をシェア

pagetop