空色幻想曲
「やはりな……(あざ)になっている」

 綺麗な白い肌にうっすらと広がる青い染み。パウダーか何かで目立たなくしていたが、間近で見ると一つだけではなく体の至るところにあった。

 俺の声にビクリと震えて(まぶた)を開けた。瞳が困惑の色を映す。

「こ、これは……えっと……」
「すまない」

 言葉を遮って謝罪を述べた。途端に青玉の瞳をクリクリさせてまくしたてる。

「な、なんで、あなたが謝るの!? だました私が悪いんだからっ。むしろ被害者はあなたでしょ!」

「俺のせいには違いない」

「攻撃されたら、やりかえすのはあたりまえでしょっ。不意討ちじゃ手加減だってできないだろうし……!」

「立っているのも辛いはずだ」

「ぜ~んぜんヘッチャラなんだからっ、こんなアザ。いっつも剣ふりまわしてるから慣れっこよ!」

「やせ我慢するな」

「やせガマンなんか……」

「俺はお前のなんだ?」

「へ?」

 すっとんきょうな声を上げた。
 なんでそんなわかりきったことを訊くのかと言いたげに、大きな目をより一層大きくしながら、一言。

「……護衛騎士でしょ」

「そうだ」とうなずいて、細い肢体を横抱きにして持ち上げた。
「ひゃっ」と小さく驚きの声を漏らしたが、今度は体を強張らせることはなかった。

 痣には触れないよう慎重にバルコニーの手すりに座らせる。決して落ちたりしないように一方は柱に寄せ、もう一方は腕で支え、ちょうど彼女を自分の腕の中に閉じ込める形になった。

 奪ったショールを掛け直してやると、交わる視線。
 唇が彼女の前髪に触れるか触れないか、そんな距離で、密やかに(ささや)く。

「二人きりのこの場で作り笑いは無用だ」

 まだ少し戸惑いに揺れる青い瞳を、俺は真っ直ぐに見つめた。
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