空色幻想曲
「なるほど」

「ホントはあなたが呼び捨てできる立場じゃないんだけど、まあ……フェンだからね」

 堅苦しい上下関係を嫌うフェンネルは、巡検隊士たちを部下ではなく『仲間』と呼んでいた。自分の名前に『殿』と敬称をつけられることも嫌う。
 けれどさすがに、将軍と同等の地位を持ったフェンネルを呼び捨てにする騎士はいなかった。

 目の前の彼を除いては。

「放浪騎士とはよく言ったものだ」

「なにそれ? フェンが言ったの?」

「ああ。俺と上下関係はない、とな」

「あはは。フェンらしい」

「…………」

 そう言われて先輩騎士をためらいなく呼び捨てにできる彼も、大物かもしれない。王女の私に対しても敬語は使わず『お前』呼ばわりするし。

 服装も、式典ではキッチリ着ていたけれど、今は上着のボタンを全開にしてマントの羽織り方もかなり適当。でも、だらしないという印象は受けなくて、しっくりくるから不思議だ。騎士の正装をここまで自然に着くずせる人は、ほかにいないだろう。

 彼は、明らかに異色な存在だった。

 フェンネル風に言うと──“不良騎士”だ。

 そんな彼を、私はむしろ好ましく思っていた。変な意味じゃなくて。
 彼ならムリな頼みも聞いてくれるんじゃないかと思ったんだ。
 いつもは一、二度断られれば引きさがっているところを、あきらめきれずに追いすがった。

「だ・か・ら」

「?」

「剣の稽古つけて!」

「何が『だから』だ。話が繋がってないぞ」

「フェンの代わりにあなたが剣を教えてって言ってるの!」

「断る!」

「王女の命令って言ったら?」
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