空色幻想曲
 口にしてから、これはちょっと反則かも、と自分で思った。
 が、口から出してしまったものは仕方ない。まちがっていることはわかっているけれど、どうしてもあきらめきれないのだ。

「ダリウス殿に報告されたいか?」

「そ、それは困る!」

 魔王の名を出されてサーッと血の気が引いた。
『告げ口』という反則技でかえしてくるとは、さすがだ。やはり、ほかの騎士とは一味も二味もちがう。

「なら、諦めろ」

「イ・ヤ!」

「……なぜそんなに強くなりたいんだ?」

「話したら稽古つけてくれる!?」

「それとこれとは話が別だ」

「じゃあ言わない!」

「勝手にしろ」

 興味なさげにきびすをかえした。長身の彼が大またで歩くと、あっという間に後ろ姿が小さくなってしまう。あわてて小走りで追いかけ、とおせんぼするように両手を広げてまわりこんだ。

「そんな……待ってよ、ねぇっ! 稽古つけてくれたらなんでも一つ言うこと聞くから~、お願い!!」

 とびっきり甘えた声で『瞳うるうる攻撃』を仕掛けた。
 ……平たくいうと泣き落とし。

 もう完全に王女の立場を捨てている。ここまでくれば王族のプライドもへったくれもあるものか。

「…………はあ~。仕方ないな……」

「稽古つけてくれるの!?」

 あきらめたようにため息をついた彼に、ようやくその気になってくれたのかと喜ぶ私。

 けれど思いがけず、一つ、提案した。
< 72 / 347 >

この作品をシェア

pagetop