空色幻想曲
「ホントにごめんね。レガートだったなんて……」

 よりかかっていた体を立て直して、もう一度謝った。
 賭けのことしか頭になくて人物の確認を忘れてしまった。自分の猪突猛進(ちょとつもうしん)っぷりを反省する。

「フフッ、親衛隊に配属されたときを思い出しますね」

「そ、そうね……」

「あのときより一段と腕を上げましたね」

「わかる!?」

「ええ。……あまり腕を上げられては僕の立つ瀬がありませんよ」

「レガートが? まさか!」

 軽く笑い飛ばすと、つられたように彼もさわやかに声を立てて笑った。
 ほかの騎士ならいざ知らず、レガートに「立つ瀬がない」と言われても冗談にしか聞こえない。

 彼は、先代の隊長をもしのぐ『神速剣』の使い手だ。
 その腕でもって弱冠19歳で副隊長に任命されるという快挙を成しとげた。これも異例のことだ。

 それから一年。先代が引退を決めたことで「次期隊長に」という呼び声も高く──それはリュートに取って替わってしまったけれど──リュートが現れるまではレガートが隊長になるものだと、だれもが信じて疑わなかったくらいだ。

 ひとしきり笑いあうと、ふぅっと息を吐いてから

「誰と間違えたんですか?」

「あっ。ねぇ、リュート、見なかった?」

「リュート? ……ああ、グレイ隊長ですか? いえ、今日は一度も見ていませんが……」

「そうなの?」

「ええ。今日は彼、非番ですから」

「非番かぁ……」

 盲点だった。
 世間一般の休日は一曜と七曜に統一されている。けれど、騎士の休みは交代制。

 今日が休みだったとは。それなら外出許可を取って出かけたのかも。私の行動範囲外に出られては、いくら探しても見つかるはずがない。

 それにしても──
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