空色幻想曲
「レガート……なんか楽しそうね」

「そう見えますか?」

「うん。すごく」

 レガートはいつでもほほ笑みを絶やさない人だ。
 でも凍りついた笑みという感じで、心から他人とうち解けることはめったにない。

 幼なじみの私には、氷の仮面を融かしてくれることもあったけれど。それも騎士になってからはめっきり減ってしまった。

 寂しいことだけど、おたがいの立場とレガートの性格を考えればしかたないとも思った。伯爵家の長男としてグランヴィオール伯の期待に懸命に応えようとしている。
 そんな感じが昔からあった。

 そのレガートが、明らかにいつもの凍りついたものとはちがう笑みを浮かべていた。子どもにもどったような男の子らしいわんぱくさを秘めた笑み。

「……まあ、興味深い人ですからね」

「興味深い?」

「英雄の再来と呼ばれるほどの実力を持っているなら、一度は本気で剣を交えたい、と思うのが騎士というものでしょう」

「騎士じゃないけど、きもちはわかるわ!」

 力いっぱい同意すると、苦笑混じりのため息をつかれてしまった。

「捜している理由はそれですか? 困った姫君だ……」

「あはは……」

 頭をかきながら笑ってごまかす。けれど、そのすぐあとに

「もし彼を見かけたら教えてくれる?」

 と少し甘えた響きで尋ねてみたら。あきらめたように「貴女の頼みなら断れませんね」とつぶやいて極上の貴公子スマイルを浮かべた。

「くれぐれもお怪我(けが)はなさらないように、ほどほどにしてくださいね。ティアニス姫」

 堅苦しいくらい礼儀正しい幼なじみの心遣いに、クスリとほほ笑みながらうなずいた。

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