空色幻想曲
「フェンネルは? お前の師なんだろう」

「フェンは巡検騎士だから城にいないことのほうが多いのよ。特に最近はあちこち飛びまわってるみたいだし」

「あの男、そんなに位が高かったのか」

「見えないでしょ」

 彼女は自分のことのように得意げに微笑んだ。

 入団試験の試験官を務めるくらいだから、ある程度地位が高いことはわかっていた。が、まさか国王直属とは思わなかった。あのおちゃらけた男に威厳というものを微塵(みじん)も感じなかったからだ。良くいえば、(おご)り高ぶらない気さくな男なのだが。

「ホントはあなたが呼び捨てできる立場じゃないんだけど、まあ……フェンだからね」

「放浪騎士とはよく言ったものだ」

「なにそれ? フェンが言ったの?」

「ああ。俺と上下関係はない、とな」

「あはは。フェンらしい」

「…………」

 あの男を思い出して無邪気な笑顔を見せる。なんだか無性に気に食わない。
 気に食わない……といえば、恰好(かっこう)もそうだ。

 王女のくせにドレスではなく、なぜか王子服を着ている。上着がピンクだったり(すそ)にひらひらがついていたり、デザインは女物に作り変えているようだが。どうやらこれが普段着らしい。

 髪型も、腰より長いストレートの髪を横の高い位置で一つにまとめてシンプルなリボンで結っているだけ。

 まあ活発な彼女には似合っているが、王女らしい清楚さや(しと)やかさは皆無(かいむ)だ。

 全くもって気に食わない。
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