空色幻想曲
──これは男ならば()ちる。絶対堕ちる!

 だがしかし、俺は王女の騎士。ここで堕ちてはいけない。頼み方は普通の女の子の可愛い我がままでも、頼み事が普通の女の子とはかけ離れ過ぎているのだから。

 グラつきかけた心を鉄の理性で立て直し、上手く断る方法はないものかと考えを巡らせた。
 その間も、じぃっと上目遣いで熱っぽい視線を向けてくる。

 グラグラ。

 あ、駄目だ。この目は犯罪だ。
 (うる)んでいるせいか瞳の星は輝きがいつもの三割増し。こんな熱視線を浴びたら鉄の理性なんかドロドロに()けてしまいそうだ。

「…………はあ~。仕方ないな……」

「稽古つけてくれるの!?」

「『賭け』をしないか?」

「え? 賭け……って、どんな?」

 気色(けしき)がスッと音を立てて変わった。その色は『期待』と『不安』が半々といったところか。

 そんな顔をされても、実はまだ内容をちゃんと考えていない。とりあえず『瞳うるうる攻撃』から逃れるために言ったのだが。

 しかし、一度口から出してしまったものは取り消せない。
 潤んでいた瞳はカラッと乾いて、早くも興味の対象は『賭け』に移ったようだ。

 さあ、どうするか。
 彼女が喰いつくもので、俺が絶対勝てるもの。

──ならば、これしかないだろう。
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