空色幻想曲
     ◇ ◇ ◇

 魔族に呪われた王国、クレツェント。
 その王宮から南に少し離れたところに、フィーネという小さな山里の村がある。

 清々(すがすが)しい風がそよぐ丘。
 緑の草の匂い。
 一片(いっぺん)(よど)みなく透き通った泉。
 歌うような鳥のさえずり。

 のどかなだけが取り得のなんの変哲(へんてつ)もない村が、俺の育った場所だ。

 俺の家は村外れの小高い丘に建っていて、自室の窓から村を一望できる。早起きして外を眺めると、いつもは閑静(かんせい)なはずの村が湧き立っていた。

 それもそのはず。この村から宮廷騎士(きゅうていきし)が誕生したのだから。

 村の入口には、王宮からの迎えの馬車が待機している。村人は、仲間の旅立ちを盛大に見送ろうと馬車の横で人垣(ひとがき)を作っていた。



「リュート、支度(したく)できた?」

 ちょうど身支度(みじたく)を整えたころ、扉越しから耳慣れた静かな声が俺に呼びかける。
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