空色幻想曲
 大聖堂の裏手の道を少し歩いた先に、王家の墓地がある。

 ここに来る前は昼間の青さが残っていた空も、赤と黄のグラデーションに変わりつつあった。

 ほんの少し早足で広い墓地の中にある『花園』を目指す。……といっても、墓であることに変わりはないのだけど。

「お父様……ティアニスです」

 色とりどりの美しい花で埋めつくされた墓前にひざまずいた。両手を胸の前で組み、黙祷(もくとう)をささげる。心の中で、目の前にお父様がいるかのように語りかけた。

 主に……お母様のこと。

 あの日からお母様とお話していない。
 もともと日課のようなものといっても、毎日欠かさずというわけではなかった。お母様のご容態で面会できない日もあったり、忙しかったり、聞かせる話題がない日もあった。

 けれどさすがに、一週間も空くことはなかった。

 このままでいいわけない。ただ言い争った事が事だけに、謝ればすむものではないし、何事もなかったかのようにふるまうのもちがうと思った。
 目を閉じた暗闇の中、手探りで光を求める。

(お父様なら……どうしますか?)

 きっと、花を贈るのだろう。花詞(はなことば)をそえて。

 でも……

 お母様のお部屋には庭園がよく見わたせる広いバルコニーがある。それは二年前から厚いカーテンで閉ざされたままだった。

 優しい花でさえ、すべてを癒せるわけじゃない。

 ならば私は、
 私のままで、
 私の言葉で、ぶつかるしかない。

 そっとまぶたを開ける。

 暗闇に慣れた目に、()みる夕映(ゆうば)え。
 墓石によりそう花たちが冬の空気にさらされながら美しく咲き誇っていた。
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