空色幻想曲
「……ティアニス様。カモミールの花詞はご存知ですか」

 茶器を慣れた手つきで用意しながら問いかけてきた。

「え? ハーブにも花詞があるの?」

「ええ。花を咲かせますから。今は咲く時期ではありませんけれど」

 お父様の乳兄妹である彼女も、祖国カトレアの風習が根づいている。
 いつものたわいない雑談として耳をかたむけた。

「カモミールの花詞は──『親交(しんこう)』。
 ケンカした人と仲直りしたいときに贈るとよろしいですよ」

「シレネ……」

 驚いた。
 お母様とのケンカを知っていたこともだけど、それより、こういう伝え方もあるんだってことに。

 花じゃなくていいんだ……
 自分なりの言葉がきっと──

“花”になる。

 いつもとなに一つ変わらない彼女の態度に、(こわ)ばっていたほほが自然とゆるんでいくのを感じた。

「じゃあ私、自分で()れてお母様に持っていきたいわ!」

 そばに歩みよると、茶器を持つ手を止めて藍色の瞳をゆるやかに細めた。

「はい。淹れ方、お教え致しましょうか」

「お願い」
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