空色幻想曲
 それからハーブティーのポットを持って、シレネとともにお母様のお部屋の扉を叩いた。

「失礼致します。リディア女王陛下」

「どうしたの、シレネ」

 先にシレネが入ると、お母様の声が聞こえた。おだやか……というより静かで抑揚(よくよう)のない声だった。
 シレネにうながされて、私はおずおずと扉の陰から顔を覗かせた。

「あ……っ」と小さく息を呑むお母様。

「失礼します。お母様。えっと……」

「本日、大変良い茶葉が手に入りましたので、リディア女王陛下に召し上がって戴こうとティアニス王女殿下がお淹れになりました」

 二の句が継げないでいる私の代わりに、いつもどおり事務的に説明する。

「まあ、ティアが淹れてくれたの?」

 それは説明したシレネではなく、私に向けられた言葉だった。

「は、はい! お母様」

「なにかしら?」

「カ、カモミールの……ハーブティーです」

 少しはにかみながら答えると

「ハーブティーは大好きよ。うれしいわ。さ、ティア。こちらにいらっしゃい」

 あたり一面に花が咲いたような笑みをかえしてくれた。

「それでは、私は失礼致します」

「うん、ありがとう。シレネ」

 扉に向かう背中に、いつもより心をこめて言った。彼女はやっぱりいつもどおり黙って礼をして出ていった。
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