空色幻想曲
 茶器をテーブルに置いて、シレネに教わったとおり慎重にお茶をカップに注ぐ。ポットを持つ手がふるえながらも、なんとかこぼさずに淹れることができた。

「いい香りね」

 ほんのりただよう甘酸っぱい香りを楽しむように、長いまつ毛をそっと伏せた。形のいい薄紅色のくちびるにカップを近づける。

 そんな小さな動きの一つ一つがほんとうに優美で、なんだかお茶を淹れるときよりも胸がドキドキした。

 食い入るように見つめる私の視線は気にも留めず、ハーブティーを一口飲んで……

「とっても、おいしいわ」

 ふんわり、笑った。
 高鳴っていた胸がジン……と温まる。

 甘酸っぱいカモミールの香り。
 白い雲のようにふわふわ立ちのぼる湯気。
 花のようなお母様のほほ笑み。
 このお部屋にだけ春が来たような優しい空気が流れる。

 浅い夢にまどろむようにしばらくその空気に身をまかせていたら、このまますべてがなかったことにできるんじゃないか、ってチラリと思ったけれど……

 この空気を一度吹き飛ばしてでも、伝えたいことがあるんだ。
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