空色幻想曲
「あの……お母様」

「なぁに?」

 カップをソーサーに乗せて、ゆっくり頭を斜めにかたむけた。絹のような光沢を放つ銀糸の髪がさらりと流れる。

「この前は、その……お母様のおっしゃることを聞かずに……声を荒らげたりして、ごめんなさい」

 声の出し方を忘れてしまったみたいに、しどろもどろになりながら口を開いた。

「ティアニス……」

 お母様の声音にもやや緊張がこもる。
 私は少しうつむいて、ひざに乗せたてのひらをギュッとにぎりしめた。

「お母様のおっしゃることはわかります。でも……『魔族を憎まない』というのは、やっぱり……」

 にぎり拳に力をこめる。

「すぐには……ムリです」

「…………」

「ごめんなさい」

 それが正直なきもちだった。

 お母様と仲直りしたい。
 心配もかけたくない。

 でも心はそうカンタンに変われなくて……今の私には、どうすればいいのか『答え』が見つけられなかった。

 ほんとうのことを口にしたら、お母様を悲しませるだけだとわかっていたけれど。ウソをついてもごまかしきれずに心配をかけてしまうなら、正直になったほうがまだマシだと思った。

 これが正しいかなんてわからない。
 きっと正しくなんてない。

 お母様を想うなら、ウソでも心配かけない言葉のほうがよかったのかも。こんなことを正直に話すのは結局ワガママでしかないのかも。

 ……もう言ってしまってから、そんな想いがグルグルグルグル頭の中でとぐろを巻いていた。

 それに目がまわって気が遠くなりかけたとき──
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