空色幻想曲
「ええ、わかっているわ」
思わず視線を上げた。
深いサファイアの瞳が、ゆれ動くことなくおだやかに見つめていた。
「私のほうこそ頭ごなしに押しつけるような言い方をして……ごめんなさいね」
「そんなっ、そんなことありません! お母様のおっしゃることは正しいです、いつも。私が……私が、未熟なだけで……っ!」
「自分の未熟な部分に目をそらさずにいられるのは、とても立派なことよ。魔族を憎いと思う気持ちも……お父様を愛すればこそ。
あなたのその気持ちに、悪いことはひとつもないわ」
「お母様……」
「魔族のために『憎むな』と言ったわけではないわ。ただ、お父様のことを思い出すたびに憎しみに囚われていたら、だれより一番お父様がお喜びにならないと思うの」
チクリと胸に小さなトゲが刺さる。
「ゆっくりでいいのよ。せめてお父様を想うときは心やすらかでいられるように……」
──あなたが幸せになれる道を探しなさい。
「はい……お母様」
最後の言葉は天から降りる光のように……心の奥深くに沁みとおった。
その光は闇夜を照らす、月。
太陽ほどの強いまぶしさはないけれど、暗い夜道に彷徨う迷子をそっと導くような。
どうして……こんなふうに人を導き照らすことができるのだろう。お母様だって今までたくさん辛い想いをしたはずなのに。
降りそそぐ優しい光に、自分の影がよりいっそう濃く浮き彫りになった気がした。
お母様には敵わない。
敵うはずもない。
本物の慈愛の女神とは、
きっとお母様にちがいないのだから──……
思わず視線を上げた。
深いサファイアの瞳が、ゆれ動くことなくおだやかに見つめていた。
「私のほうこそ頭ごなしに押しつけるような言い方をして……ごめんなさいね」
「そんなっ、そんなことありません! お母様のおっしゃることは正しいです、いつも。私が……私が、未熟なだけで……っ!」
「自分の未熟な部分に目をそらさずにいられるのは、とても立派なことよ。魔族を憎いと思う気持ちも……お父様を愛すればこそ。
あなたのその気持ちに、悪いことはひとつもないわ」
「お母様……」
「魔族のために『憎むな』と言ったわけではないわ。ただ、お父様のことを思い出すたびに憎しみに囚われていたら、だれより一番お父様がお喜びにならないと思うの」
チクリと胸に小さなトゲが刺さる。
「ゆっくりでいいのよ。せめてお父様を想うときは心やすらかでいられるように……」
──あなたが幸せになれる道を探しなさい。
「はい……お母様」
最後の言葉は天から降りる光のように……心の奥深くに沁みとおった。
その光は闇夜を照らす、月。
太陽ほどの強いまぶしさはないけれど、暗い夜道に彷徨う迷子をそっと導くような。
どうして……こんなふうに人を導き照らすことができるのだろう。お母様だって今までたくさん辛い想いをしたはずなのに。
降りそそぐ優しい光に、自分の影がよりいっそう濃く浮き彫りになった気がした。
お母様には敵わない。
敵うはずもない。
本物の慈愛の女神とは、
きっとお母様にちがいないのだから──……