大陸の彼方
「…サンタルム」

馬車が止まった。
馬車は、アランティウムの国の領土を巡回している。目的地を予め言っておけば、馬車はそこをルートに組み込んで運転してくれる。
吟遊詩人に話し掛けられた剣士が、外していた剣の鞘を腰に戻した。

「ありがとう」

袋から手間賃を出し、手綱を握る男に手渡した。
一瞬男の動きが止まったが、深々とお辞儀をして剣士を見送る。

馬車から降りて、振り返ることなく歩き始めた。

間を置いて馬の蹄鉄の音と、引かれていく幌の音が次第に遠くになっていく…

「グレン・バズ」

「…」

剣士がゆっくりと振り返る。吟遊詩人がにこっと笑って立っていた。

「翠の風…お噂はかねがね」

「人違いだと思うけど」

「貴方が依頼を受けて殲滅した盗賊の中にね。私の弟がね、居たのですよ」

グレン、と呼ばれた剣士の動きが止まった。

「やっぱり貴方でしたか、翠の風」

「…」

「貴方に依頼をお願いいたします…翠の風。勿論謝礼は払いましょう」

吟遊詩人はグレンの傍に立ち、肩にぽん、と手を置いた。

「くく。貴方は腕は立つようだが…まだまだ甘いようだ」

「?」

「ただカマを掛けただけですから。今の話はお気になさらず!」

吟遊詩人は悪戯っぽく笑って見せた。
< 2 / 8 >

この作品をシェア

pagetop