大陸の彼方

過去の落とし物

サンタルムの町に着いた。アランティウムの城下町に比べたら小規模ではあるが、整備されていて、住みやすさでは負けていないように見える。

「依頼ってな」
「先ずは宿をとってからゆっくりと話しましょうか」

言葉を制するように、詩人は指を差した。
宿の看板が見える。

「…満室みたいだな」

「おやおや。アランティウムは物価が高いとは言え、部屋にはお金をかけるようですね…それとも、」

何か言い掛けて、止める。

「…何だよ」

「まあ、後で後でということで。次行きましょう〜」

結局、町はずれの少し古い建物に部屋を借りた。

「全く、部屋を2つ借りるなんて勿体ない!高くつきますよ」

「今日会ったばかりの、嘘つき吟遊詩人は信用ならないんでね」

それを聞いて、怒るかと思ったが、詩人は楽しそうに笑って見せた。

「それが良い。少しは学んでいただいたようですね」

グレンは、彼をどうも好きになれそうになかった。

「では、私の部屋にどうぞ。大丈夫、取って食いやしませんから」

グレンの部屋と大差ない広さだ。
グレンは椅子に、詩人はベッドに浅く座った。

「さて…改めて、と」

詩人はにっこり笑った。人が良さそうで、知的な顔立ちだ。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop