ガンバレ、男子!
去年の夏休み前、それまであまり話したことが無かった弥佳が話しかけてきた。
「春日さん!私、笠原弥佳。弥佳って呼んでね。あのね、実はお願いがあるんだけど…」
弥佳は、演劇部だと言った。私はそんな部があるのも知らなかったが、うちの学校が設立された年に出来た、伝統ある部なのだそうだ。
でもここ何年かは人気が無く、廃部の危機に陥っている。今年こそ何とかしないと、同好会に格下げ、部費ももらえなくなるという。
そのために、素晴らしい脚本を書き上げたのだが、人手不足で、ヒロインの相手役がいないのだと言う。男役だし、まず背が高いことが第一条件だ。それで、私に相手役をやってくれないかと言うのだ。
「春日さん、うちの学校であなたが一番適役なの。」
もちろん、断った。劇なんかやったこともないし、まして男役だ。出来る訳が無い。
「私が、教えるから。…春日さんはセンス良さそうだし、大丈夫!」
結局押し切られ、やることになった。正直、引き受けたときには、そんな大変なことだとは思っていなかった。