ガンバレ、男子!

何とか立てたものの、ゆっくり、足を引きずるようにしか歩けない。

「…ごめんね、陸くん。折角のお祭りなのに…」

見上げると、陸は笑って言った。

「全然!俺はむしろ…」

「?」

「…いや、何でもない…。ええと、歩けそう?早くこの人込みを抜けたいよね…。また踏まれたりしたら…」

「…それは、考えたくもない…」

頑張って歩こうとしたけど、人込みを掻分けて進むのは難しかった。

陸が私を守るように手を回してくれていたが、それでも結構、人にぶつかる。ぶつかって、足を踏ん張る度、激痛が走った。

噛み締めている唇まで痛くなってきた。自然と無言になり、顔も俯きがちだった。

歩いている間中、陸が低い声でずっと話をしてくれていた。何の話だったかは覚えていない。けど、私の気を紛らわそうとしてくれているんだろう、ということは分かった。

最初に会ったときから、声のいい人だな、とは思っていた。頭の上から響くその声は、心地よく、穏やかな気持ちにさせてくれた。

その時・・・。

陸が、急に黙った。

< 98 / 269 >

この作品をシェア

pagetop