君の声が聞こえる
 彼女の顔は微笑んだままだったが、僕の事を何てつまらない人間だろうと思っているのかもしれない、そう思うとつらかった。

「私も一年生なの。明後日の入学式、何だかドキドキするね」

「そうだね」

 僕の言葉を聞いて彼女の微笑が大きな笑顔に変わった。

「初めて『うん』以外の言葉を言った!」

 声を立てて笑う彼女は本当に楽しそうで、彼女がとても明るい性格なのだという事が伝わってきた。

 しばらく大きな口を開けて笑った彼女は、満足したように笑いを納めると「それじゃあ」と軽く僕に手を上げた。

「もしかしたら、入学式の時に会えるかもしれないわね」

 他意もなく、呟いた一言だったに違いない。

彼女の僕を見る表情はそれまでと変わらなかった。

それでも僕はこのまま終わりになってしまうのが嫌で、背中を向けた彼女に声をかけていた。

「俺、加藤睦月!睦月って言うんだ」

 彼女は立ち止まり驚いたような表情を僕に向けた。しかし、それは一瞬の事で、何か思い出したように小さくクスリと笑った。

それは彼女にとって、とってもいい思い出なのかもしれない。そう思えるような表情だった。

「私、須藤雅巳。よろしくね」

< 11 / 225 >

この作品をシェア

pagetop