君の声が聞こえる
もし出先で発作が起きたら周囲に迷惑をかけると思っているのを僕は感じ取っていた。

「須藤、合宿に参加するつもりなの?」

「うん。戸隠でしょ?空気がいいだろうし、一度行ってみたかったの。それに私に何かあったら、また加藤が助けてくれるでしょ?」

 バトミントンの授業の時みたいに、と続けた雅巳の言葉に僕は顔を赤らめた。

 そうだ。あの時、僕は初めて自分の言葉で雅巳に想いを告げ、そして受け入れてもらったのだった。

あの時の事を思い出すと、胸の中に甘さが溢れてくるような気がする。

「あ、当たり前だ!」

「なら安心。ゼミ合宿なんてみんなと行く旅行みたいで、すごく楽しそう」

 雅巳の言葉に他意も下心もないのは分かっている。見た目に反して、そういう事に疎い純情な子だ。

それでも、下心全開で男丸出しの僕は雅巳の言った『旅行』という言葉に妙な期待と想像をしてしまった。

 そんな狼のような僕の本心も知らず、羊のような雅巳は僕の隣で華やいだ声で「楽しみ」という言葉を何度も口にした。

 そして、その言葉を聞きながら、雅巳のような純情な女を相手にそんなふしだらな期待をしてしまう自分に呆れてしまうのだった。

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