君の声が聞こえる



僕の下心なんて気付かないまま、僕たちは九月を迎え、ゼミ合宿の日を迎えた。

 僕と雅巳が所属する川原ゼミは、二年から四年生全体で合わせて四十人ほどの講座だ。

二年は僕と雅巳を含めて十二人。同じ学年に仲のいい友達がいない僕と雅巳は自然と一緒にいることが多かったが、雅巳は先輩達にも人気があった。

雅巳は誰とでも親しく話すし、いつも笑顔だったので、誰からも好かれていた。

しかし、僕と正巳の関係は公然だったので誰も雅巳に言い寄ったりしない。

人がよくて話しやすい先輩たちに囲まれて川原ゼミはとても居心地がいい講座だった。講師の川原先生もとても分かりやすい授業をしてくれるので、生徒から人気があった。

講座の内容は『行政法』だった。だからと言ってそんな名前の法律が存在するわけではない。分かりやすく言えば行政に関する法について学ぶ講座なのだ。

 合宿の場所は長野県の戸隠。

高台にあるこじんまりとした民宿のような合宿所で行われる事になった。

戸隠へは何台かの車で分乗して行く事が決まっていた。免許を持っていて車がある者の中から有志を募り、戸隠まで行くのだ。
< 122 / 225 >

この作品をシェア

pagetop