君の声が聞こえる
勿論そんな事はしないが、酒を飲むペースは上がるばかりだった。

 三十分ほどハイペースで飲み続けたら、かなり気持ちが悪くなった。

「すいません、ちょっと外の空気吸ってきます」

 僕の顔色を見た先輩たちは「大丈夫か?」と口々に声をかけてくれた。僕はそれに対して頷いて見せた。

言葉を発したら、胃の中の物をすべてその場で吐き出してしまいそうな気がした。

 店の外に出て歩いていると、頬なでる風が心地良かった。湧き上がってきていた嘔吐感が静まっていくのが分かる。

「大丈夫?」

 女の声に振り返ると雅巳が立っていた。

「吐きそうならトイレに行く?顔色悪いし、背中なでてあげようか?」

 雅巳の澄んだ瞳は僕だけを映していた。それだけで今まで感じていた焦りや不安がどこかへ飛んで行ったようだ。

「平気。外の空気を吸ったら大分落ち着いてきた」

「そう、良かった」

 雅巳は僕の隣に並んだ。雅巳が僕の元に戻ってきたのが嬉しかった。そして、そんな事を考えてしまう自分が恥ずかしくて、誤魔化すように空を見上げた。

 空には数え切れないほどの星が瞬いている。

「満天の星だな」

「本当に……来て良かったわ」

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