君の声が聞こえる
 悪びれもせずに、そんな事を言いながら可愛い舌を出したから、僕の方が先輩たちに申し訳ない気持ちになったほどだ。

先輩たちは本当に雅巳を心配してくれていた。

「先輩達には申し訳ない事しちゃったけれど、二人でこんな遠出する事なんて滅多にないんだから、どっか寄ろう」

 雅巳の言葉は僕の耳に悪魔の囁きのように響く。

 正直言えば、僕だって雅巳と二人きりで遠出を楽しみたかったのだ。断る事など出来なかった。

 その結果として、僕たちは地元で帰る途中で見かけた名前も知らない湖に寄った。

そして、そこでボートに乗った。

 もちろん、ボートを漕ぐのは僕の役目だった。

雅巳は、僕の目の前で腰をおろしながら、僕を見つめている。僕を見つめる瞳は優しくて愛情に満ちていた。思えば、僕達は一緒にいる時間は多くても、こんな恋人同士がするような事をしたことはなかった。

暑いほどに日差しにさらされながらも、僕の心は弾んでいた。

こんなに楽しい気持ちになれるのは久しぶりだ。

「加藤って力持ちなんだね」

「これくらい何て事ないさ」

 永遠にこんな時間が続けばいいのにと思った。しかし、時間は残酷だ。
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