君の声が聞こえる
別れ話だろうか?

それだけは僕が応じるわけがないと分かっていて、この時間に急に会いたいなんて言ってきたんだろうか?

いや、違うな。

僕の中に存在する心の声が、その考えを否定した。

雅巳は僕の事を愛している。

それだけは疑いようがない。大体、別れるつもりの男に体を許すような女ではない。

それに別れ話なら、わざわざこんな時間じゃなくてもいいはずだ。

心がざわめいていた。何か良くない事が雅巳の身に起こったのかもしれない。

考えられる事は雅巳の心臓の事だ。もしかしたら、よくない状況にあるのだろうか?

僕は不安な心を抱えたまま、雅巳と約束した大きな公園に向かって走った。

僕が公園に着くと雅巳は、いつもの木の下で待っていた。昼間の暑さや強い日差しから身を守るために、木陰に隠れている雅巳の定位置だ。今は僕に自らの居場所を示すようにそこに立っている。

外灯の明かりだけが、雅巳への道を照らしてくれていた。

「遅くなってごめん」

 僕の言葉に雅巳は頭を振った。

「急に呼び出したのは私だから。ごめんなさい」

 外灯の明かりに照らされた雅巳の顔は青白かった。やはり具合が悪いのだろうか?

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