君の声が聞こえる
 心配になって雅巳に手を伸ばす。雅巳は抵抗することなく僕の胸の中におさまった。

 細い体。

 雅巳の体温。

 雅巳の甘い匂い。

 それらは、僕に雅巳の存在を示してくれているものたちに間違いなかった。

 雅巳の生命力を感じる事に胸をなでおろし、雅巳は何の為に、僕をここに呼び出したのか考える。

「何か良くない事でもあった?」

「良くない事……?」

「うん。体調が良くないとか?」

「そんな事ないよ」

「でも大切な話があるんだろ?」

「そうよ」

 雅巳は頷いて、考え込むように顎に指を当てた。どうやって伝えようかと迷っているように見える。

「俺、何を言われても驚かないよ。だけど別れ話だけはパスな。須藤と別れる気ないし」

「別れ話じゃないよ……」

 言いながら雅巳は俺の手を掴んだ。そして、その手を自分のお腹の辺りに導く。

 雅巳が何をしたいのか分からないまま、僕は雅巳がする事を見ていた。

「触って」

 雅巳に言われるまま、雅巳のお腹に触れる。体が細い雅巳はお腹も例外ではなく、細かった。しかし、何でだろう。胸がドキドキする。僕の頭の中にもしかして、という考えが閃いた。

「須藤、まさか……」
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