君の声が聞こえる
 僕の焦った様子に雅巳が首を傾げて見せた。

「まさか?何?」

「赤ちゃん……出来たとか?まさかそんな事ある訳ないよな」

 言いながら乾いた笑いが僕の口から漏れた。そんな事あるはずない、と思いながらも僕の中にはその考えが当たっているような確信が広がっていく。

「その……まさかよ」

「俺と須藤の子供?」

 僕の言葉に、雅巳が初めて怒ったような表情を僕に向けた。

「他に誰の子供が出来るって言うの?」

「俺と……須藤の……」

 僕が呆然と呟いているのを雅巳は不安そうに見つめていた。僕といえば、急な出来事過ぎて、なかなか頭が回転しなくて口の中で何かブツブツ言っていたようだ。

「やっぱり加藤にとっては良くない事……なんだね」

 僕がなかなか反応を示さないのを、雅巳は悪い方に受け取ってしまったらしい。僕は雅巳の言葉に正気に返ると大きく首を振った。

 ようやく、現実と感情が一致したのだ。

「須藤、結婚しよう!今すぐに。俺と須藤の子供、育てよう!」

 正気に返った僕は雅巳が驚くぐらいの勢いで、まくし立てた。

 嬉しかった。幸せの絶頂だった。

雅巳の中に、僕と雅巳の子供がいる。その事実は僕の心を高鳴らせた。
< 149 / 225 >

この作品をシェア

pagetop