君の声が聞こえる
雅巳という子は確かに明るい子ではあったが、こんなに浮かれた彼女を見るのは初めてだ。

惜しげもなく、本当に楽しそうに綺麗な笑顔を振り撒いている。

　加藤君はそんな雅巳に優しい眼差しを注いでいた。

　入り込めない雰囲気が私の気持ちを濁らせた。それまで、雅巳がいるだけで、楽しい気持ちになれたのに、今の私はどんよりとしていて、気持ちが重い。

　なんだか私、お邪魔虫みたい。

　雅巳、私といる時より加藤君といる時の方がずっと楽しそうだ。そう思い始めたらキリがなくて雅巳が笑顔であればあるほど嫌な気持ちになってきた。

　私は雅巳の笑顔が大好きなのに。

「雅巳、私、他の席に行くね」

「え？どうしたの？急に」

　立ち上がった私を雅巳は驚いたような顔で見つめていた。加藤君はまるで、私の気持ちが分かっているみたいに余裕な表情のまま、雅巳の背中を押した。

「ほら、須藤、お前も秋山さんと一緒に行ってやれよ。秋山さん、俺の事、知らないから緊張しちゃうんだよ」

　ごめんね、と付け足して私を見た加藤君の余裕さが余計に私を苛立たせた。

「雅巳、行こう！」

　絶対に雅巳は私を選ぶはず！そんな確信があった。
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表紙・目次

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