君の声が聞こえる
酷い事を言われて傷つけられたのは雅巳の方だというのに、僕の両親の事を心配している雅巳のこういう常識的なところがとても好きだ。

「須藤の事をあんな風に言われたら……俺、許せないよ」

「私は平気よ。二人とも加藤の事、心配していると思うの。だから喧嘩はしないで」

「須藤は何も心配しなくていいよ。俺、これから頑張るからさ。須藤は俺の大学の事も心配してくれたみたいだけどさ、そんな心配する事ないんだ。須藤はこれから生まれてくる赤ちゃんの事だけ考えていればいいんだよ」

「加藤……加藤はいつも私の事ばかりだね」

「当たり前じゃん」

「当たり前なの?私がいなくなったらどうするの?」

「そんな事、考えた事ないよ。須藤がいない世界なんて俺には必要ないし」

 雅巳は僕の答えに顔を歪めた。

「そんな事言ったら駄目だよ……」

「それを言ったら須藤だろ。どうして自分がいなくなったらなんていうんだよ!」

「ごめんなさい」

 俯いた雅巳を僕は抱き上げた。そして、そのまま自分の生まれ育った家に背を向けて歩き出す。
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