君の声が聞こえる
 それこそが僕の心から離れない不安であり、いつでもついて回る心配事だったと言うのに、平然と本人に口にされたら、僕はどうしたらいいというんだ?

「須藤……俺のそばからいなくなるなよ」

「加藤?」

「……心臓の方は大丈夫なんだよな?もし……須藤の体に負担が掛かる様なら赤ちゃんは諦めよう」

 産まれていない赤ちゃんよりも雅巳の方が何十倍も大切なんだ。

もし、雅巳を失うぐらいなら、一生、子供なんていらない!

「大丈夫よ。帝王切開にすれば、心臓に負担はかからないって先生が言ってくれたわ」

 雅巳のしなやかな指が僕の頬に触れ、やわらかい唇が僕の頬を口付けた。

「お父さんは心配性ですねぇ」

 にっこり微笑む雅巳に一点の曇りも感じられなかった。

 雅巳、雅巳、雅巳、雅巳。

 もしも、この時に時間を戻せるなら僕はどんな犠牲だって厭わないだろう。

 僕達が籍を入れたのはそれから一週間後の大安の日だった。

 僕の本籍は鹿児島になっていたらしく、戸籍謄本を取り寄せるのに一週間かかったのだ。

 そして、雅巳は晴れて加藤雅巳となった。
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