君の声が聞こえる
夫婦の営みは、赤ちゃんを気遣って戸惑う僕の手を雅巳が引いた。

「大丈夫だから」

 加藤雅巳になった雅巳は今まで以上に綺麗になった。幸せな表情を隠さない雅巳は天使のような笑顔を浮かべていた。

僕はそんな雅巳に優しく触れる。

 壊れないように、辛くないように。それは初めての時から変わらない。

 雅巳は僕が触れるたびに、艶かしく、甘い吐息を漏らした。

 僕達にとって、この行為は神聖な儀式で、誰よりも雅巳を愛しているという事を伝えるための儀式だった。

籍を入れた日にこの儀式をねだった雅巳は、僕の気持ちを体で感じたかったんだと思う。

そして、僕もその気持ちは同じだった。

 その行為が終わった後、雅巳は僕の腕枕の中でこう言った。

「私は大学を退学するわ。でも、睦月には今まで通り大学に通ってほしいの。学費は私が行くために母が用意していたものを使って」

「そんなの駄目だよ。それに雅巳が勝手に決めることじゃないだろ?」

「母には許可を取ったわ」

「許可を取ったって……そんな勝手に……」

「勘違いしないで。睦月が大学を卒業すれば、就職する時に就職の幅が広がるでしょ?そしたら私とお腹の中の子供も安定した暮らしが出来るでしょ?」
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