君の声が聞こえる
 しっかり者の僕の奥さんは僕の胸にキスをしながらそう僕を諭した。

 雅巳は初めからそのつもりだったのだ。僕の両親に言っていたのもこの事だった。

 それなのに、雅巳の話をろくに聞かないで、雅巳を「ふしだらな娘」という言葉で切り捨てた。

今になって、両親に対して再び怒りが沸々と湧いてきた。

 しかし、冷静になって考えてみると僕が今まで通りに大学に通う事になったら生活出来ないではないか。

「でも……生活費やここの家賃は?」

「父が……私に遺産をいくらか残してくれたの。それで睦月が大学を卒業するまでは何とかなると思うの」

「塩谷さんが?でもそれは……雅巳のために残してくれたものだろ?」

 考えてもいない事だった。塩谷さんの性格を考えれば、それは決して不自然な事ではないが、雅巳はそういった事を口にするような子ではなかったので知らなかった。

 しかし、塩谷さんが雅巳のために残した遺産を使う事に僕は抵抗を覚えた。

「何を言ってるの。私達、夫婦でしょ。妻が二人のために自分のお金を使うのは普通の事よ。それに父も、こういう使われ方をしたなら、きっと喜ぶわ」

 僕は雅巳の言葉にハッとした。

雅巳は知っているのだろうか?
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