君の声が聞こえる
実際、雅巳は溜息一つついて席を立った。

「良枝、わがまま過ぎ!じゃ、加藤、また今度ね」

 勝った!

 妙な優越感が私の濁った気持ちを晴らした。

 初めに雅巳が一緒にいたのは加藤君だった。

それでも私を選んだ。その事ですっかり満足して私は雅巳の腕をとって、その場を離れた。

 私は加藤君からうんと離れた席に移動して雅巳を座らせた。そして、加藤君の視線をさえぎるように雅巳の右隣に腰をおろした。

「良枝、あれはかなり感じ悪いよ」

「何で?」

「何でって……」

 雅巳は呆れたように肩をすくめた。

「私が最初に一緒にいたのは加藤だったでしょ?」

「それって私が邪魔だって事?」

 じわ、と目に涙を浮かべて雅巳の顔を見つめる。

「ああ、もう!そんな事、言ってない」

 そんな事で泣かないでよ!と雅巳の大きな目が告げていた。いい子いい子、と頭をなでられながら私は、自分はなんて幸運な人間なのだろうと実感する。

雅巳の『特別』でいられる事。多くの人が望んでも得る事の出来ない立場だ。

「じゃあ、授業が終わったら、今日は私と一緒にサークル見学に行こう!」

「サークル見学?」

「そう!」

 雅巳の瞳が揺れた。
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