君の声が聞こえる

しかし……

それは突然だった。

「良枝が加藤の事をずっと好きなのは知っているわよ」

　雅巳に誘われた散歩先で雅巳は私に向かってそう言葉を紡いだ。

そういえば、ここは、雅巳に私が妊娠を告げられた公園ではないか。まさか、あえてこの場所を選んで、こんな話を始めたのだろうか？そんな疑問が脳裏を掠めた。

　私は雅巳が加藤君の事を『加藤』と呼ぶのを久し振りに聞いたような気がする。加藤君と結婚してから、雅巳は加藤君の事を『睦月』と呼んでいた。

雅巳の口調は穏やかで、静かだった。私は聞き間違いをしたのかと思って雅巳の顔をまじまじと見つめてしまったぐらいだ。

「私、あなたを苦しめてきたわね。ずっと謝らなくちゃいけないと思っていたわ。ごめんなさい」

「雅巳……？」

「私、あなたの気持ちを分かっているくせに加藤と付き合って結婚したのよ。ひどい女ね」

　自虐的な言葉を吐きながらも、雅巳の表情は静かなままだった。

「それでも、心の中で、あなたなら許してくれるかもしれないなんて思っていたの」

　雅巳はどうしてしまったんだろう？

　ついさっきまで、「もうすぐ生まれるわ」などと話していたではないか。