君の声が聞こえる
それなのにどうしてこんな事を言い出すのだろう?

「雅巳は勘違いしているわ。私は雅巳の事を怒った事なんてない。だから私に謝る必要なんてないのよ。確かに加藤君のことを好きだと思った時期もあった。でも、それは過去の事なの。私は加藤君よりも雅巳の事の方がずっと大切よ!」

 私は一生懸命、自分なりに言葉を選んで気持ちを伝えた。

雅巳は私の顔をじっと見つめていた。沈黙が私を押し潰そうとする。

お願い、雅巳、何か言って!

私は雅巳に嫌われたくなかった。確かに雅巳と加藤君の事を羨んだ事もあった。でも、その時の辛さよりも、雅巳に嫌われる事の方がずっと辛い。

 そんな私の気持ちを見透かしたように、雅巳は笑顔を浮かべた。私が今まで見てきた雅巳の表情の中で一番綺麗な笑顔だった。

「それも知っているわよ」

「え?」

「良枝が私の事を大切にしてくれた事も、私のために加藤を諦めてくれた事も知っているのよ。私」

「それならどうして……」

 どうして今さらそんな事を言い出すのだろう?

 雅巳はこれから赤ちゃんを生んで加藤君と幸せになるのだ。

 それなのに、どうして?

「私、頑張ってみたけど……もう駄目みたい」
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