君の声が聞こえる
 絶望的な言葉とは裏腹に雅巳の声は明るかった。

「雅巳?」

 何を言っているのだろう?雅巳はこんなに元気なのに。今まで私が知っている中で一番元気で溌剌としているのに。

「この子だけは絶対に元気に産んでみせるわ。どんな事があっても……!」

雅巳は自分のお腹に視線を落として、強い決意のこもった眼差しを向けた。

まるで、お腹の中の我が子に語りかけるように。

「良枝、私はもう生きられないから……この子の事をお願い」

「何を言っているのよ。雅巳は絶対に死なない!」

 こんなに強い生命力を放っているのに、雅巳が死ぬはずない!

 私の強い口調に雅巳は私から視線を反らした。それは雅巳らしくない仕草だった。

 いつだって、雅巳は何事にも視線を反らしたりはしなかった。優美な姿に反して心の強い子だという事を私は知っている。

 それで私も悟ったのだ。

 この妊娠は雅巳の命を脅かすものだ。それを承知で雅巳は子供を生む決意をした。

 私は、ここで雅巳に妊娠を告げられた事を思い出していた。

 まさか、あの日から雅巳は私にお腹の子供を託すつもりだったのだろうか?

 だから、私に選ばせた……?

 まさか……そんな事あるはずがない。
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