君の声が聞こえる
それでも私は、子供だと思われようが構わないと思った。こんなに悲しいのに泣けなければ嘘だ。

『良枝、ごめんね。あれは嘘よ』

いつもみたいに雅巳が、そう言ってくれるまで、私は泣き続けるつもりでいた。

「良枝……聞いて」

「何を?」

 私は泣いたまま、雅巳の顔を見た。涙でゆがんだ雅巳の顔が一体どんな表情を浮かべているのか私には分からなかった。

「私が間違っていた。確かに良枝の言う通りだわ。こんなに元気な私が死ぬわけないわね。出産は初めてだから心配なのかもしれないわ。ねえ、良枝、私を安心させてくれる?」

「安心?」

「そう。きっと心配だからあんな事を言っちゃったのね。だから、安心して元気な子供を生みたいの」

「うん」

 私は涙を拭った。

「それじゃあ、約束して」

「何を?」

「良枝は私の事を好きだって言ったわね?」

「うん。言ったよ」

「じゃあ、もうじき生まれてくる子の子の事も私の事を好きだって言ったのと同じくらいに好きになってくれる?」

「雅巳と同じくらいに?」

「そうよ」

 涙を拭った私の目の前には、いつもどおりの雅巳の優しい表情がある。その表情を見て私はホッとした。
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