君の声が聞こえる
どうしよう、と迷っているのが分かる。雅巳は極力、自分の体に負担をかけないようにしている。

そうすることが義務であるかのように。

だから私は助け舟を出す事にした。

「運動部とかじゃなくっても、いろいろあると思うの。映画研究とか落語研究サークルとか……」

 私の言葉に雅巳が、ふふふと笑った。笑うと端正な顔は一気に幼くなる。

「良枝、映画とか落語とかに興味あるの?意外だわ」

「ないない!例えばよ!例えばの話」

「分かっているわよ。良枝ってからかうと面白いんだもの。言ってみただけ。いいわよ、行きましょ。サークル見学。……本当は運動部の方が興味あるんだけどね」

 でも、それは出来ない。

 その言葉を雅巳は飲み込んだ。一瞬、雅巳の顔が余計な事を言っちゃったな、という気まずい表情になった。

 分かっている事とはいえ、人というのは口にせずにはいられない生き物なのだ。

 雅巳は強い。私がもし雅巳と同じ立場だったら、こんなに明るくいられるだろうか?


きっと毎日、泣いて暮らす事になるだろう。

「帰りに雅巳の家に寄ってもいい?」

 これ以上、サークルの話を続けると雅巳を傷つけてしまいそうな気がして、私は話題を変えた。
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