君の声が聞こえる
『それは本当よ。でも雅巳はそれ以前の問題。体力がないし、あの子の心臓はもう限界に近付いているわ』

『嘘だ!雅巳は俺と結婚してから体の調子もいいし、発作だって起こしていない……』

『それは私達も驚いているわ。それだけあの子にとって今の生活が幸せで満たされているって事なんでしょうね。あんなに幸せそうなあの子を見た事ないもの』

『それなら……』

『そういう問題じゃないの。

あの子の心臓は生まれた時から大きな欠陥があって、助かるには移植手術しかないって言われていたのよ。

でも、今の日本の医療技術では成功は難しいわ。

アメリカの心臓外科の権威といわれる先生に手術してもらっても確実とは言いがたい状況だった。

それを雅巳は嫌がったのよ。経済的負担の事やドナーが現れなければ、ドナーが現れるまで待ち続けて、最悪の場合そのまま亡くなる事を覚悟しなければならないって知ったからよ。

それなら大好きな友達がいる日本にいたいって、後悔なく生きていきたいって幼い頃のあの子は、自分でそう決めたの』

 僕は固唾を呑んだ。激しい頭痛が僕を襲う。ショックのあまり目の前が真っ暗になったような気がした。
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