君の声が聞こえる
『奇跡的にこの年までもったけれど、あの子の心臓は大人の体を機能させるようには出来ていないの。主治医の先生は無理をしなければあと二、三年を何とかもつだろうって言って下さった。でも子供なんて生んだら、あの子の体はもう持たないわ。負担が大き過ぎる』

『どうしてそこまで分かっていながら雅巳を止めてくれなかったんだ!』

『それは昔からの約束だったから』

『約束?』

『あの子は自分の人生を精一杯に生きていく覚悟で日本に残ったのよ。たとえ短い命でもね。私は日本に残ると言ったあの子と約束したわ。あの子が本当にやりたいことなら私はどんな事してでも叶えてあげる。協力するって。その約束を覚えていたからかしら。あの子は本当に今まで聞き分けのいい我が侭なんて一つも言わない子だった。そんな子があなたと子供の事に関しては絶対、譲れないって……そう言われたら私には反対は出来ないわ』

 嘘だ!嘘だ!嘘だ!

「いつまでベランダにいるつもり?」

 いつまで待っても戻ってこない僕に痺れを切らした雅巳がベランダに出てきた。

「話したい事があったんでしょ?」

 この笑顔が消えてしまうなんて事があっていいんだろうか?
< 175 / 225 >

この作品をシェア

pagetop