君の声が聞こえる
 僕は雅巳の顔を直視出来なくて顔をそむけた。

「………」

「睦月らしくないな。言いたい事があるならはっきり言ったらいいのに」

「………」

 僕は何も言う事が出来なかった。口を開いて事実を聞いてしまったら、僕は真実か
ら逃げる事は出来ない。雅巳を失うという現実を受け入れなくてはいけなくなってしまうのだ。

 そんな事、耐えられそうにない。

 雅巳は手摺りに寄り掛かる僕の隣に並んで空を見上げた。

「母から聞いたんでしょ?」

「………」

 何も言う事が出来ない僕に雅巳はそのまま静かに話し始めた。

「母が話した事は全部、本当の事よ。主治医の先生が子供を生んだら命の保障は出来ないって言ったのに、それでも生むって言ったのは私の我が侭よ。それでも、私、怖くないわ。だって睦月に会ってから私には沢山の奇跡が起こった」

「奇跡?」

「そう。恋して、結婚して、もうじき赤ちゃんが生まれる。私が絶対に無理だって思っていた事を睦月が全部叶えてくれたのよ。私、怖くない」

「雅巳……俺は雅巳がいない世界でなんて生きていきたくないよ……」

 僕は泣いていた。代われるなら僕が雅巳の苦しみを引き受けたい。
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