君の声が聞こえる
私は母と雅巳の母親が挨拶を交わすのを見ながら、忙しい雅巳の母親が私のところに来た理由は何だろうと考えていた。

私はもうこれ以上一秒だってこの場所にはいたくない。

雅巳の死をこれ以上、感じる事は私にとって正に生き地獄だった。

だからお清めは遠慮して、もう帰るつもりだったのだ。

「良枝ちゃん……今日はお通夜に参加してくれて有難う。雅巳も本当に喜んでいるわ」

「………」

 雅巳は死んでしまったのだ。

私が通夜に参加したからって、喜ぶ事はもう出来ないのに、どうしてこんな言い方をするんだろう。

そんな言葉のやり取りさえ億劫に感じられて私は黙り込んだ。

「良枝ちゃん、これは生前、雅巳からあなたに渡してって言われていたものよ。よかったら受け取って頂戴」

 そういって渡されたのはピンク色の無地の封筒だった。

「これを雅巳が?」
「ええ」

 雅巳の母親は私が封筒を受け取ると、ホッとしたように柔らかい笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。

私も頭を軽く下げ返して、その場を後にした。
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