君の声が聞こえる
それでも、私があなた達を愛しているのは本当よ。

良枝、いつでもあなたの幸せを心から願っているわ。

                                加藤雅巳』


読み終わった後、溜息が洩れた。

そして、何度も読み返していくうちに、どうしてこんな手紙でなく、ちゃんと話してくれなかったのかと雅巳に対して怒りが湧いてきた。

しかし、そんな怒りがお門違いなのも分かっている。

『良枝が加藤の事をずっと好きなのは知っているわよ』

 そう話を切り出した時、雅巳は、本当はこの事を最後まで私に話したかったのかもしれない。

それを遮ってしまったのは、私が混乱して泣き出してしまったからだ。

 普段、我が侭など一切、言わなかった雅巳。

 最初で最後の我が侭。

 それが、どんな事でも叶えてあげてしまいたくなるのは、私自身がどうしようもなく雅巳の事を好きだからかもしれない。

 雅巳の声が聞こえる。

『良枝、幸せになってね。私の死を悲しまないで。だって私は幸せだったんだから』

 雅巳。私の大切な親友。

 私が加藤君の事を好きだと知りながら、彼と付き合うのはどんなに苦しかっただろう。
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