君の声が聞こえる
 私が苦しかったと同じに雅巳も苦しかった。

それでも、彼女は自分の命の限りに後悔なく生きたんだろう。

 考えてみれば、酷い話だ。私には何も言わないで勝手に死んで、子供を私に任せたいなんて事を普通言えるだろうか?

 それなのに、今まで以上に雅巳の事が愛しく思えるなんて、私自身どうかしているのかもしれない。

 私は自分の感情が抑えられなくなって、ふらつく足で一階にある電話台に向かって歩き出した。

今、夜中の二時だ。

こんな時間に電話する事の失礼さは分かっていたが、私の電話する相手も眠れていないだろうということは予想がついたので、遠慮なく電話させてもらう事にする。

 電話の「リーン」という音が受話器から耳に入ってくる。

なかなかでない相手にイライラしながら、もしかしてお通夜の流れで、雅巳のお母さんの実家に泊まりこんでしまったのだろうか?とも考えた。

 そんな不安を持ち始めた頃、相手が出た気配がした。

「もしもし?」

 暗い声だった。

私の知っている加藤君とは、まるで別人のような声に私は一瞬言葉に詰まった。

「秋山です」

「あ、秋山さんか、今日はお通夜にきてくれて有難う……」
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