君の声が聞こえる
 加藤くんはそれまで何やら話していた人と別れ、私達の方にやって来た。顔に満面の笑顔を浮かべて、本当に嬉しそうに雅巳の事を見ている。

「あれ?いいの?何か用があって話していたんでしょ?」

 雅巳は不思議そうに加藤君を見た。でも私はこれで完全に加藤君の気持ちが見えたような気がする。

加藤君は雅巳が好きなんだ。

「うん。平気。さっきの人は高校時代、一緒にバスケ部に入っていたんだ。サークルに誘われて考えさせてくれって言っていたところ。須藤たちが通りかかって良かったよ」

 加藤君は私達に何の断りもせず、雅巳の隣に並んで歩き出した。雅巳もそれについて追求しようとせず、自然な様子で歩き始める。

「加藤、バスケ入っていたんだ」

「似合わないかな?」

「そんな事ないよ。加藤は背も高いし、運動神経も良さそう」

「秋山さんは運動系のサークルとか興味ない?」

 加藤君は私を気遣って話を私に振った。基本的に加藤君はとても優しい人なんだと思う。

でも、雅巳狙いだと分かるから嫌い。

「別に私は見てのとおり運動神経が鈍いから興味ないわ」

「ははは、意外に秋山さんってはっきりしているんだね。運動は苦手でもマネージャーとかどう?須藤と秋山さんだったらどこのサークルも、大歓迎だと思うよ。それに須藤は運動神経良さそうだよね」

 私は加藤君の言葉に固まった。自然に視線が雅巳に向かう。雅巳は自分の体の事、一切加藤君には言っていないんだ。いつだって雅巳は自分の体の事を自分から人に言う気はない。
< 20 / 225 >

この作品をシェア

pagetop