君の声が聞こえる
 はっきりとは聞いたわけではないから分からないが、こんなに小さい生き物を抱かせることに躊躇いがあるし、それにまだ誰にも抱かせたくもない気持ちもある。

自分は抱く勇気がないくせに、人に抱かれるのが嫌だというこの感情が何なのか僕には戸惑いがあった。

 しかし、良枝は僕の複雑な感情など、まるで分からない様子で保育器の中の小さな赤ん坊を見つめている。

「そうだよねえ。こんなに小さいんだもんねえ。それじゃあ、退院したら抱かせてくれる?」

「……ああ」

 僕が曖昧に頷くと良枝は小さく笑った。

「楽しみだわ」

 良枝の横顔を見つめながら、僕は彼女の真意が掴めないでいた。

お通夜に来た時の良枝はゲッソリと面やつれをしていて雅巳の死を受け入れられていなかった。

そんな彼女を見て内心、仲間を見つけたような気持ちだった。

 雅巳の死を受け入れられず、深い悲しみにいるのが自分だけじゃないという事実が少しだけ僕の心を救ってくれた気がしていた。

 それなのに、どうしてあれから半日しか経っていないのに、彼女はこんな風に他の事に意識を向ける事が出来るんだろう。

「加藤君、この子の名前は決めたの?出産届は出した?」
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