君の声が聞こえる
 雅巳は死んだんだ。それなのに、雅巳の声が聞こえるだなんて良枝はおかしくなってしまったんだろうか?

 このついていけないテンションのそのせいなら許せる気がした。

「加藤君、気持ちを落ち着けて。雅巳が加藤君にお願いした事ってなかった?」

「あ……」

 不意に脳裏に広がった雅巳の笑顔。

聞こえてくる記憶の中の雅巳の声。

『雅巳、幸せな家族になろうな』

 そう言った僕に雅巳はなんて答えた?

『睦月が私の事を愛してくれているのと同じくらいお腹の赤ちゃんの事を愛してくれるなら、私達は絶対に幸せになれるわ』

『僕は雅巳が一番なんだよ。赤ちゃんは二番』

 僕の言葉に雅巳は頭を振ったんだ。

『じゃ、こうしましょ。睦月にとって私が一番。赤ちゃんも一番』

『分かったよ』

 僕の答えに安心したように僕に笑顔を向けた雅巳。

 それにあの時だって……。

 雅巳の本当の体調を僕が知った時だって、雅巳は自分の事よりお腹の中の子供を気遣っていた。

『それなら約束して。これから産まれてくるこの子を私と同じぐらいに愛してくれるって』

『分かってる。分かっているよ』

 そして、雅巳が命をかけて生んだ赤ん坊。
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