君の声が聞こえる
 いつだって、僕との子供の事ばかり考えていた。

 そうだ……。そうだったよ。

僕は雅巳と約束したんだ。

僕達の子供を雅巳と同じくらい愛するって。

 僕には、この子を幸せにしなくちゃいけない責任がある。

 黙りこんだ僕に良枝は少し興奮したような口調で続けた。

「加藤君、私は雅巳と約束したの。この子の事を雅巳と同じくらいに好きになるって。私には聞こえるわ。雅巳の声が。この子の事を大切にしてねって言っている声が聞こえるの」

 完敗だ。

 僕は秋山良枝に完全に負けた気がする。

 良枝は見た目よりもずっと強いし、僕よりもちゃんと周りが見えている。

 今の僕を見たら、雅巳は悲しむだろう。雅巳の死を悲しんでばかりいて、僕達の子供をないがしろにしている姿なんて見たくないに違いない。

 急に目の前が明るくなったような気がする。僕の目の前を覆っていた目隠しは、良枝の言葉によって取り外されたのだ。

「……秋山さんの考えた名前ってどんな名前?」

 僕の言葉に良枝の表情が柔らかくなった。自分の言いたかった事が僕に伝わったことが嬉しかったのだろう。
「あのね……」
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